この記事では、競馬新聞だけを見て、「素早く追い切り診断したい時に見るべきポイント」を載せています。
確かに、追い切り映像抜きでは実際の馬の動きが見れないので追い切り診断の精度は下がります。
ですが、紙面を見ただけである程度の情報が分かれば時間が節約出来る上に、その浮いた時間を他の予想ファクターに割けば予想全体の精度が上がり、的中に繋がる可能性があります。
もちろん、追い切り映像を見つつ本記事で紹介するポイントをチェックしていただいてもOKですが、次のようなお悩みをお持ちの方は、是非ともご覧になってください。
- 時間がなくて、すぐに追い切り診断をしなきゃいけない人
- とりあえず、簡単な追い切り診断が出来るようになりたい人
- 追い切り映像を見るのが面倒な人
追い切りでこれだけは見るべきポイント
1.追い切り本数を見る(超重要)
「レース間隔に応じた追い切りの基準本数」をもとに、追い切りの良し悪しが判断出来ます。
その基準本数は、以下の通りになります。
ローテーション別 基準本数
(ローテ→本数)
中1週→1本
中2週→2本
中3~5週→3本
中6~7週→4本
中8~9週→5本
中10週以上→6本
引用元:井内利彰(2016) 『増補改訂版 競馬に強くなる 調教欄の取扱説明書』 株式会社ガイドワークス p.35
(追い切りの基準本数から下す、大まかな判断)
- 基準本数よりも調教本数が多い→その馬の調子は良好
- 基準本数よりも調教本数が少ない→その馬の調子は普通~不調
追い切りは競走馬に負担が掛かります。
体調不良や脚部不安がある馬、疲労を溜め込んだ馬は、これ以上身体に掛かる負担を増やさないように追い切り本数を減らさざるを得ません。
一方、体調が良い馬はより多くの本数をこなすことが出来ます。
そのため、その馬の追い切り本数は上記の基準本数よりも多くなる傾向にあります。
追い切り本数の具体例(読みたい人は「クリック」)
- デニムアンドルビー(2015年宝塚記念出走時の追い切り)
デニムアンドルビーは宝塚記念の前走に天皇賞春に出走しました。
前走の約1週間後から坂路主体の調教を開始し、中7週のスパンで何と32本もの追い切りを消化しました。(この記事を執筆中の2024年4月現在、後にも先にもこれより凄い勝負仕上げは見たことがありません)
結果、宝塚記念では10人気ながら勝ち馬とクビ差の2着に激走し、大波乱の片棒を担ぎました。
この追い切りの本数から、デニムアンドルビーは「前走の反動が皆無」なことと、デニムアンドルビーの「調子が極めて良好」なことが読み取れました。
2.調整パターンを見る
次に、競走馬の調整パターンが、その馬の「所属している厩舎の勝負メニュー(通常よりも競走馬に負担が掛かるメニュー)」かどうかで調子を判断出来ます。
(調整パターンから下す、大まかな判断)
- 調整パターンが所属厩舎の勝負メニュー→その馬の調子は良好
- 調整パターンが所属厩舎の勝負メニューじゃない→その馬の調子は普通~不調
所属厩舎が所属馬に勝負メニューを施す意図は、「陣営が狙っているレースで勝負になる仕上がりにするため」です。
そのためには、所属馬の体調が良くなければ強い稽古に耐えることが出来ません。
つまり、「勝負メニューを施した=その馬の調子が良い」とジャッジ出来ます。
一方、勝負メニューを施せなかった場合は、その馬の調子が悪かったり、何らかのアクシデントが発生してしまった可能性があります。
調整パターン変更を余儀なくされた具体例(読みたい人は「クリック」)
- タスティエーラ(2024年大阪杯出走時の追い切り)
タスティエーラが1週間でこなす通常調整パターンは、「坂路→ウッドコース(併せ馬)」という、坂路とウッドコースを併用したメニューです。
ところが、3月14日にウッドコースで行われた2週前追い切りで、6ハロンタイムが自己ベストタイムに0.1秒差という好時計を叩き出した後の調整パターンは、3月21日(南ウッドコース(単走))→3月24日(美浦坂路単走)→3月27日(南ウッドコース(単走))という、いつもとは異なる軽めの調整でした。
タスティエーラを管理する堀調教師によると、1週前追い切りから調整パターンを変えたのは、「他馬への依存度が強く、人と馬との関係に向き合うため、あえて単走で追い切りました」という意図があったそうです。
しかし、これは裏を返せば「いつもの調整パターンを変えなければならない、何かしらの事情があった」ということになります。
私は、タスティエーラが調整パターンを変えなければならなかった理由は、「仕上がりが早過ぎたことでレース前に調子の下降が始まり、オーバーワークでさらに調子が下がらないように軽い調整パターンに切り替え、調子のキープを余儀なくされたから」だと考えます。
タスティエーラが本番より早く仕上がってしまった証拠は、2週前追い切りで自己ベストに0.1秒差に迫る好タイムを叩き出したことです。
競走馬の追い切りではレース本番に調子のピークを持ってくるために、自己ベストに近いタイムが出るような強い追い切りは1週前追い切りで消化し、最終追い切りでは程々のタイムを出して微調整を行うのがザラです。
しかし、タスティエーラは2週前追い切りで自己ベストに近いタイムを出してきました。
私は2週前に計時されたタイムを見て、タスティエーラは予定よりも早く調子のピークが来てしまったのだと思いました。
そのため、堀厩舎はタスティエーラの調子下降を食い止めるために、1週前追い切りと最終追い切りで強めの追い切りをしなかったのだと考えます。
果たして、調整が上手くいかなかったタスティエーラは大阪杯で11着に惨敗してしまいました。
2024年大阪杯は、実績のある馬だろうが調整が上手くいかなければ、いともたやすく馬券外に飛んでしまうということを改めて実感したレースでした。
3.調教タイムが良いか
調教タイムの早さは追い切り当日の馬場コンディションに左右されるので、調教タイムは1,2のポイントよりも判断材料としては弱いです。
しかし、調教タイムは先で挙げたタスティエーラの例のように、競走馬の調子を測ることが出来る情報であるため、利用しない手はありません。
調教タイムの良し悪しは、その馬の「自己ベストタイム」を基準に判断します。
なお、その馬の自己ベストタイム(または、自己ベストに近いタイム)が調教で使ったコースが道悪や使い詰めで時計が掛かる条件の時に出た場合は、通常のコースコンディションで出たタイムよりも価値が高いので、要注意です。
(調教タイムから下す、大まかな判断)
- レースまでの追い切りで自己ベストタイム更新、または自己ベストタイムに近いタイムを計測→その馬の調子は良好(「今回のタイムが自己ベストタイム計測時よりも弱い手ごたえならば、尚良し」)
- レースまでの追い切りで自己ベストタイムに近いタイムの計測がない→その馬の調子は普通~不調
※ただし、前述のタスティエーラのように、良くない理由で調整メニューを変えた場合は割引が必要です。
※競走馬のレース間隔が詰まり、上がり重点(ラスト1ハロンだけ速いタイムを出す)の調教だった場合は、全体時計ではなく、ラスト1ハロンのタイムの速さで良し悪しを判断しましょう。
その他、紙面でチェックすべきポイント
この項目では、上記3項目よりも重要な情報ではないものの、知っておけば買う馬の取捨に役立つ情報を3つ紹介いたします。
1.追い切りに大きな間隔が空いてないか
競馬新聞の調教欄を見ていると、たまに追い切りと追い切りの間とで、妙な間隔が空いていることがあります。
間隔が空いた時の主なパターンは、以下の2通りです。
- 体調不良やオーバーワークで追い切りが出来ず、間隔が空いてしまった
その馬のコンディションに異常が発生したため、マイナス材料です。
- 元々出走予定のレースを回避した(または、出走予定のレースで非抽選馬、非当選馬となり、レース出走が叶わなかった)
レース回避後の調教を見て異常がなければ、特にマイナス材料ではありません。
レース回避後の調教具体例(読みたい人は「クリック」)
- スターズオンアース(2023年ジャパンカップ出走時)
スターズオンアースは2023年天皇賞秋を右前脚蹄の異常で回避しました。
しかし、本来なら天皇賞秋から中3週で挑むはずだったジャパンカップの追い切り本数は6本と、基準本数以上の追い切りを消化している上に、調整パターンは通常通りのものでした。
そして、調教タイムに関しては、ゴール前で仕掛けたとはいえ最終追い切りで自己ベストタイムより早いタイムを計時し、ブランクを感じさせないものでした。
結果、スターズオンアースはおよそ6ヶ月半ぶりのレースながら、ジャパンカップで3着に好走しました。
このように、回避した後の追い切りがいつも通りの調整ならば、特に割り引く必要はありません。
2.前走後(または、放牧先や外厩先からの帰厩後)、何日後に早いタイムを出したか
前走(または、放牧先や外厩先からの帰厩)から何日後に早いタイム(※)を出し始めたかで、馬の状態がある程度分かります。
前走(または、放牧先や外厩先からの帰厩)してから何日後に早いタイム(競馬新聞の紙面に載るようなタイム)を出したかは、馬券購入の立派な判断材料となります。
※「競馬新聞の紙面に載るような早いタイム」のこと
- 前走後
前走から2週間以内に早いタイムが出せれば、前走の反動が少ないと判断可能。
前走後の初タイム計測の具体例(読みたい人は「クリック」)
- イクイノックス(2023年ジャパンカップ出走時)
前走の日:2023年10月29日
前走後、初めて早いタイムを出した日:2023年11月12日
イクイノックスは前走から14日後に早いタイムを計時。
中3週で合計4本の追い切りを消化し、ジャパンカップを快勝した。
- 放牧・外厩
帰厩してから1週間以内に早いタイムが出せれば、休養明けの鈍りが少ないと判断可能。
外厩先から帰厩後の初タイム計測の具体例(読みたい人は「クリック」)
- アートハウス(2023年エリザベス女王杯出走時)
外厩先からの帰厩日:2023年10月4日
帰厩後、初めて早いタイムを出した日:2023年10月22日
アートハウスは骨折明けで8か月ぶりのレースだった。
通常、放牧や外厩明けの競走馬は帰厩してから1週間以内に早いタイムを出すのがザラだが、アートハウスが早い時計を出したのが外厩先から帰厩して18日後、且つレースから3週間前の10月22日と、明らかに早いタイムを出した日が遅かった。
外厩先で乗り込まれていたにも関わらず、すぐに早い時計を出さなかったのは、「①馬の仕上がりが遅いから」、「②馬の体調が良くないから」というマイナスの理由があったと判断出来る。
結果、実際のレースでは13着に敗退し、そのまま引退となった。
3.追い切りで誰がどのくらい騎乗したか
陣営の勝負度合いは、追い切り本数や調整メニュー以外にも、「追い切りで誰が騎乗したか」でも察知することが出来ます。
- 主戦騎手が何週も追い切りで騎乗する
本番のレースでコンビを組む騎手が1週前追い切りや最終追い切りで騎乗するのはよくある調整ですが、あえて何週もの追い切りで騎乗するというのは、「レースで結果を出すために騎乗する馬の癖や特性を把握しようとしていること」の裏返しになります。
よって、陣営がそのレースに賭ける勝負度合いが高いと判断出来ます。
ジョッキーが何週もの追い切りで騎乗した具体例(読みたい人は「クリック」)
- ディープブリランテ(2012年日本ダービー出走時)
有名なエピソードは、2012年日本ダービー馬のディープブリランテです。
主戦の岩田康誠騎手はディープブリランテの力を発揮出来るように、日本ダービーの追い切りで何週も騎乗し続けて馬とのコンタクトを取り、見事ダービーで優勝しました。
- 調教師が何週も追い切りで騎乗する
あまり見ない例ですが、調教師自らが追い切りで何週も騎乗し、結果を出したパターンもあります。
こちらも、陣営がそのレースに賭ける勝負度合いが高いと判断出来ます。
調教師が何週もの追い切りで騎乗した具体例(読みたい人は「クリック」)
- ベラジオオペラ(2024年大阪杯出走時)
通常、調教師は調教助手や騎手に調整の指示を出す立場にいます。
よって、そのような立場にいる人が調教で自ら馬に騎乗して調整を行うのはあまり見かけないメニューと言えます。
ところが、ベラジオオペラを管理する上村洋行調教師は、2024年大阪杯出走時の調整で、2週前追い切り・1週前追い切り・最終追い切りの全てで自ら騎乗し、入念に馬を仕上げていきました。
そして、その追い切りが功を奏し、大阪杯で人馬共に初のGⅠタイトルを獲得しました。
「調教師自らが馬に乗ることでその馬の状態を具に把握し、実際のレースで結果を出す」という上村厩舎の勝負仕上げは、非常に興味深い調整メニューでした。
今後もこのような調整を施してきた場合は、またレースで好勝負を演じるかもしれないので要注意です。
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追い切り映像を見る時のポイントをまとめた記事です!
レース映像で注目すべきポイントをまとめました!
予想の役に立つ本は下記のページで紹介してます!
調教予想がもっと上手くなる本を紹介
例えば、調教予想をやっている時に、その馬の追い切り本数などで馬の調子を読み解かねばならない等、難しい判断を迫られる場面も出てきます。
そんな時、あなたに追い切り本数に関する知識がなければ、その馬の好調不調を見逃してしまう可能性があります。
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本のタイトル:増補改訂版 競馬に強くなる調教欄の取扱説明書
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そのため、本の内容としては読みやすく仕上がっており、競馬初心者の方にもオススメの一冊となっております!
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そして、いつかあなたが見つけた穴馬で勝負する時に、調教の知識が確固たる予想の軸となり、あなたに高配当をもたらしてくれるでしょう。
この記事のまとめ
それでは、最後にこの記事の内容をまとめさせていただきます。
以上、最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
この記事が、あなたの競馬予想の一助になりますように!
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